ミラー・ダンス









 暫く黙って俯いていたから、見飽きて寝たのかと思っていたアレルヤは、不意に顔を上げてまっすぐにロックオンを見た。その気配がロックオンにはわかった。銃を構えている時は特に、ロックオンには手の届く範囲の大体が判る。自分の見えていない視野の端であっても。
 ゆったりと顔を上げたアレルヤは無言でロックオンを見ていた。ロックオンは銃を構えたままで、その銃口の先にターゲットを捉えていた。脳の中心は静かに冷えて、いま引き金をひく必要があるかどうかを考えていた。その標的を撃つ必要はあるのかを。たとえただの訓練に過ぎず、そこにぶら下がっているのが紙切れ一枚であるときも、ロックオンはそれを考える。考える訓練をしている、というのに近い。実際にそうやって構えたときに、考えるための訓練をしている。
 その様を暫く無言で見ていた、かれは、すうと息を吸った。そのひそやかな空気の移動がロックオンには判った。
 息を吸って、吐く。それに伴う振動。
「わかった」
 ロックオンは銃を下ろす。振り返って声の主を見た。
「何が?」
「あんたが好きだな」
「──どうも」
 いっかいだけ、ゆっくりと瞬きをしてからロックオンは応えた。かれは不思議そうに、顕わになった右目を細める。
「驚かないのか?」
「驚いてるように見えねぇか?」
「そういうとこは嫌いだ」
 そう言い切って、じっとロックオンを見る。獣のような目玉だと思った。刹那のものに似ているが、それよりももっと純粋なもののように思えた。もっと純粋な、自分と相対的な距離感より他に何の価値観も持たない、野生の獣。
「じゃあ何が好かれたんだ、俺?」
 そう言って、ロックオンは銃を構えてみる。今度は躊躇いなく、それを撃つべきだと脳は判断した。そのこえに従って、銃声が響く。ひとがたを映した紙切れは、中央に穴を穿たれて揺れる。
「そこが」
 銃声の余韻に被せるように、かれははっきりとした声で言った。
「そうやって撃つのを、あんたは自分で決めれる」
「まァ、仕事だからそこは」
「いいな」
 そう言ってかれは目を細める。その視線が紛れもない好意だと知って、ロックオンはかれを見返す。きんいろの目玉。めくれあがったくちびるが言葉を形作る。
「あんたのその、最低なとこが好きだ」
「褒め言葉として受け取っていいのか?」
「ああ。だけど忘れんなよ」
 そう言ってかれは目を伏せる。続く呟きはひどくひそやかで、気をつけなければその意味を拾うことすらできなかったが。
「──おれがすきなものは、あいつはきらいだ」
「ああ、心得ておくさ、ハレルヤ」



 彼が目を覚ましたのに気が付いて、ロックオンは立ちあがるとドリンクボトルを放ってやった。
「おはよ。空いたぜ、練習台」
「あ、すいません──寝ていました?」
「気にすんなよ。悪いな、待たせて」
「いえ──あの」
 受け取ったボトルに視線を落としてから、続いて立ちあがったアレルヤはまっすぐにロックオンを見る。その表情に戸惑いの色が見えたから、元気づけてやるようにロックオンは笑った。
「何?」
「僕は何か言っていましたか?」
「いいや、何も?」
 肩を竦めて笑ったロックオンは、用事が済んだとばかりに歩き出す。実際アレルヤが目を覚ますのを待っていただけで、トレーニングルームにはそれ以上の用事は無かったのだ。顔を見て挨拶をして、それをこなしてしまえば今日の業務はお終いで。
 そういうところが嫌いなんです、と悔しげな声が背中にぶつかった。




えええええと。
何が「せつない」のかを説明しなきゃいけないような、でもしたら間抜けなのですが、でもこれ以上書き足せないので。諦めてくださ、い(えええええ)。